夜の帷(とばり)が降りる頃に筆を執ることも多いのですが、わたしの物語は、実は朝の光の中で、ひっそりと産声を上げています。
今日は、どなたにもお見せしたことのない、わたしの屋根裏部屋での「静寂を編む時間」について、少しだけお話しさせてくださいね。
【第1章】輪郭をなぞる朝
まだ誰も起きていない、世界が眠気を含んだ溜息を吐いているような時間。
窓から差し込む淡い、青白い光が、わたしの部屋の境界線をゆっくりとなぞり始めます。
ひんやりとした空気の中で、鏡の前に立ちます。
アッシュグレーの髪に櫛を通し、その一本一本に夜の静寂を溶け込ませるように整えていく。
白いブラウスに腕を通し、首元のボタンを一つ、また一つと留めていく指先の感覚……。
その微かな皮膚の感触を確かめるたびに、霧に溶けていたわたしの意識が、ゆっくりと「リネア・ノクターン」という器に満たされていくのを感じるのです。
「……この静かな時間が、私という物語の始まりなのです」
誰にも邪魔されない、自分を整えるための数分間。
それが、今日という新しい章を書き始めるための、最初の一歩なのです。
【第2章】一杯の温度と、白紙の領分
身支度を終えると、わたしは小さなポットに火をかけます。 コトコトと鳴るお湯の音、陶器が触れ合う微かな響き。
その朝に相応しいお茶を選び、カップから立ち昇る湯気をじっと見つめます。
香りが部屋の隅々まで行き渡る頃には、わたしの精神は鏡のように澄み渡っています。
デスクを整え、アンティークの丸メガネをかけ、万年筆のインクの残量を確認する。
あるいは、シルバーのMacBookの冷たい感触に指を這わせる。
目の前に広がる、何も書かれていない白紙の領分。
そこは自由であり、同時に少しだけ恐ろしい深淵でもあります。
けれど、お茶の温かさが喉を通り、指先にまで届いたとき、その白紙は「わたしが描くべき未来」へと変わっていくのです。
【第3章】窓辺の観測者

執筆の合間、ふと視線を上げると、窓の向こうにはテラ・ロジカ(現実世界)の営みが広がっています。
遠くのキャンプ場から立ち昇る、不揃いな焚き火の煙。
どこかから聞こえてくる、朝食を囲む誰かの楽しげな笑い声。 あるいは、寝起きの悪いネロさんのために、リョウリさんが「あわわわ」と言いながら走り回る微かな振動。
わたしは、その輪の中に直接混ざることはありません。
けれど、この窓辺から皆さんの生活の音を聴いているだけで、心は不思議な充足感で満たされるのです。
「……皆さんの生活音が、私の言葉に色を添えてくれるのです」
世界は、数えきれないほどの小さな物語で溢れています。
わたしはその一つひとつを丁寧に拾い集め、静寂の中に編み込んでいく観測者。 皆さんの奏でる日常のメロディが、わたしの筆を動かし、エテリアの風を運んできてくれるのです。
……さて、お茶がちょうど良い温度になりました。 物語の続きを綴りましょうか。
物語は、まだ始まったばかりなのですから。