キッチンのオーブンから、甘い香り……ではなく、鼻を刺すような煙の匂いが漂ってきました。
慌てて覗きに行くと、そこには真っ白なエプロンを煤(すす)だらけにしたリョウリちゃんが、天を仰いでいました。
こんにちは、リネアです。
今日は、いつも完璧な彼女が珍しく焼き上げてしまった「愛すべき失敗作」のお話です。
完璧じゃなくていい
「ボ、ボクとしたことが……! 火力調整の魔石が暴走して……!」
リョウリちゃんが隠そうとしていたトレイの上には、炭のように真っ黒なクッキーたちが並んでいました。
彼女は泣きそうな顔で「ゴミ箱行きだね……」と言いましたが、私はその手を止めました。
だって、その黒い塊からは、彼女が「最高に美味しくしよう」と頑張っていた熱量が、痛いほど伝わってきたから。
【アーカイブ】図書館塔の記録より
名称:ダークマター・クッキー(失敗作)
成分分析:
小麦粉、バター、砂糖、そして過剰な熱エネルギー(情熱)。
栄養価は変わらないが、表面に強い炭化層(ビター・シールド)を形成している。
特記事項:
通常は廃棄対象だが、特定の条件下(ホットミルクとのペアリング等)においてのみ、「成功品には出せない深み」を発揮する。
(アイリスちゃんの分析によると、これも立派な「料理」のようです)
苦味は、努力の足跡
ホットミルクを温めて、二人でその「失敗作」を齧(かじ)りました。
……うん、苦い。
口の中に広がる焦げの味。
でも、ミルクで流し込むと、奥の方からふわりとバターの香りがしました。
「……ごめんね、リネアちゃん。苦いよね」
「ううん。これは『苦い』んじゃなくて、『頑張った味』がするよ」
成功した料理はただ甘くて美味しいけれど。
失敗した料理には、「次はもっと上手くやるぞ」という物語が詰まっています。
その物語ごと味わうのも、悪くないものです。

失敗した日は、自分に優しく
何かを新しく始めたり、ブログを書いたりしていると、どうしようもなく失敗する日があります。
誰にも読まれなかった記事、空回りした企画。
でも、どうかその「失敗」をすぐにゴミ箱へ捨てないでください。
その苦味を知っている人だけが、いつか誰かに優しくなれるはずですから。
今日のところは、温かいミルクと一緒に、その苦味を噛み締めて休みましょう。
ごちそうさまでした。